中央アルプスに登る
空木岳・木曽駒ヶ岳の旅。16・17座目は中央アルプスを代表する2座、空木岳(うつぎだけ)・木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)に登ってきました。飛騨山脈(北アルプス)や赤石山脈(南アルプス)と共に日本アルプスを構成する中央アルプスは、長野県南部の天竜川(てんりゅうがわ)が流れる東の伊那谷(いなだに)と、木曽川(きそがわ)が流れる西の木曽谷(きそだに)に挟まれた木曽山脈(きそさんみゃく)を指している。これまでは林業への配慮から、長野県の県立自然公園とされていたが2020年、新たに木曽山脈一帯を「中央アルプス国立国定公園」として指定した。※国が指定する自然公園には「国立」と「国定」に分かれていて「国定公園」は国が指定、都道府県が管理する自然公園である。
空木岳・木曽駒ヶ岳の旅。16・17座目は中央アルプスを代表する2座、空木岳(うつぎだけ)・木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)に登ってきました。飛騨山脈(北アルプス)や赤石山脈(南アルプス)と共に日本アルプスを構成する中央アルプスは、長野県南部の天竜川(てんりゅうがわ)が流れる東の伊那谷(いなだに)と、木曽川(きそがわ)が流れる西の木曽谷(きそだに)に挟まれた木曽山脈(きそさんみゃく)を指している。これまでは林業への配慮から、長野県の県立自然公園とされていたが2020年、新たに木曽山脈一帯を「中央アルプス国立国定公園」として指定した。※国が指定する自然公園には「国立」と「国定」に分かれていて「国定公園」は国が指定、都道府県が管理する自然公園である。

特徴
中央アルプスは南北約100キロ、東西約20キロと形状は細長く規模はやや北・南アルプスよりも小さいが、北部にそびえる最高峰の木曽駒ヶ岳(2956m)をはじめ、中間地点には空木岳(2864m)最南端の恵那山(えなさん2191m)など、3000mにも匹敵する山々が連なる地域である。
中央アルプスは南北約100キロ、東西約20キロと形状は細長く規模はやや北・南アルプスよりも小さいが、北部にそびえる最高峰の木曽駒ヶ岳(2956m)をはじめ、中間地点には空木岳(2864m)最南端の恵那山(えなさん2191m)など、3000mにも匹敵する山々が連なる地域である。


木曽駒ヶ岳 2956m

木曽駒ヶ岳は信仰の山として多くの人に崇められてきたが、特に伊那谷と木曽谷の人々にとっては生活の糧となる大切な領域で、雄大さや神秘性に畏敬の念を持っていた。伊那谷側の人々は南アルプスの甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ)を「東駒」、木曽駒ヶ岳を「西駒」と呼び、それに対し木曽谷側の人々は「木曽駒ヶ岳」と地域によってそれぞれ異なる呼び方をしていた。現在では木曽駒ヶ岳の呼び名が一般的である。また木曽駒ヶ岳山頂には2つの社殿が建っている。伊那側にあるものは「伊那駒ヶ嶽神社」木曾側にあるものは「木曽駒ヶ嶽神社」と呼ばれている。

木曽駒ヶ岳は信仰の山として多くの人に崇められてきたが、特に伊那谷と木曽谷の人々にとっては生活の糧となる大切な領域で、雄大さや神秘性に畏敬の念を持っていた。伊那谷側の人々は南アルプスの甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ)を「東駒」、木曽駒ヶ岳を「西駒」と呼び、それに対し木曽谷側の人々は「木曽駒ヶ岳」と地域によってそれぞれ異なる呼び方をしていた。現在では木曽駒ヶ岳の呼び名が一般的である。また木曽駒ヶ岳山頂には2つの社殿が建っている。伊那側にあるものは「伊那駒ヶ嶽神社」木曾側にあるものは「木曽駒ヶ嶽神社」と呼ばれている。
木曽駒ヶ岳につながる登山ルートは多く、東の伊那市や西の木曽町、南西の上松町から始まる登山コースや、駒ケ根市(こまがねし)から出発する駒ケ根ロープウェイを利用して千畳敷駅(せんじょうじきえき)へ一気に上昇するルートがある。隣接する千畳敷カールはすでに森林限界の世界。夏は高山植物、秋は紅葉が楽しめる。また周辺は宝剣岳(ほうけんだけ)や三沢岳(さんのさわだけ)にアプローチがしやすく、山荘も数多く運営していることから、気軽にアルプスの大自然を楽しむことができる。


木曽駒ヶ岳につながる登山ルートは多く、東の伊那市や西の木曽町、南西の上松町から始まる登山コースや、駒ケ根市(こまがねし)から出発する駒ケ根ロープウェイを利用して千畳敷駅(せんじょうじきえき)へ一気に上昇するルートがある。隣接する千畳敷カールはすでに森林限界の世界。夏は高山植物、秋は紅葉が楽しめる。また周辺は宝剣岳(ほうけんだけ)や三沢岳(さんのさわだけ)にアプローチがしやすく、山荘も数多く運営していることから、気軽にアルプスの大自然を楽しむことができる。

宝剣岳 2931m

宝剣岳(ほうけんだけ)は、千畳敷カールから望む大きな岩峰としての姿が、中央アルプスの代表的な風景の一つとされている。見た目通り急峻な山で、鎖場やステップが整備された登山道には、スリルを味わおうとヘルメットを装着した登山者達で賑わっている。登山コースは、千畳敷カールから登る人が多く、カール内の駒ヶ岳神社で左右に分かれている。右回りに乗越浄土(のっこしじょうど)から天狗岩(てんぐいわ)を眺めながら北稜(ほくりょう)を登るルートと、左回りに極楽平(ごくらくだいら)から登って山頂に立つルートがあるが、いずれも1時間程度。宝剣岳の南面には主稜線の登山道が続き、空木岳へとつながっている。

宝剣岳(ほうけんだけ)は、千畳敷カールから望む大きな岩峰としての姿が、中央アルプスの代表的な風景の一つとされている。見た目通り急峻な山で、鎖場やステップが整備された登山道には、スリルを味わおうとヘルメットを装着した登山者達で賑わっている。登山コースは、千畳敷カールから登る人が多く、カール内の駒ヶ岳神社で左右に分かれている。右回りに乗越浄土(のっこしじょうど)から天狗岩(てんぐいわ)を眺めながら北稜(ほくりょう)を登るルートと、左回りに極楽平(ごくらくだいら)から登って山頂に立つルートがあるが、いずれも1時間程度。宝剣岳の南面には主稜線の登山道が続き、空木岳へとつながっている。

空木岳 2867m
隣接する南駒ヶ岳と共に、ダイナミックな景観の空木岳。主な登山コースに駒ケ根市の池山尾根登山口(930m)から空木岳山頂(2867m)に至る「池山尾根ルート」があるが、標高差約2000mを踏破する健脚向きコースである。これには中央アルプスの地形が大きく関わっていて、東西に極端に狭い地形ゆえに登山口から頂上へ一気に上昇しなければならない。底部の深い森から、頂点の森林限界の世界まで、変化に富んだ登山道を楽しめる。また、ルート上には池山小屋や空木平避難小屋、空木駒峰(うつぎこまほう)ヒュッテなど、施設も充実している。


隣接する南駒ヶ岳と共に、ダイナミックな景観の空木岳。主な登山コースに駒ケ根市の池山尾根登山口(930m)から空木岳山頂(2867m)に至る「池山尾根ルート」があるが、標高差約2000mを踏破する健脚向きコースである。これには中央アルプスの地形が大きく関わっていて、東西に極端に狭い地形ゆえに登山口から頂上へ一気に上昇しなければならない。底部の深い森から、頂点の森林限界の世界まで、変化に富んだ登山道を楽しめる。また、ルート上には池山小屋や空木平避難小屋、空木駒峰(うつぎこまほう)ヒュッテなど、施設も充実している。

2座を繋ぐ縦走路
空木岳・木曽駒ヶ岳間はいくつものピークによって稜線が繋がっていて、激しいアップダウンの縦走路は登山時間も長い。しかしロープウェイをうまく利用することで、限られた時間内でも踏破することが可能である。通常はロープウェイ千畳敷駅よりスタートして、なるべく標高差を稼ぎ、それから空木岳へ向けて南下する。稜線上には山荘や小屋などの宿泊施設や、檜尾岳(ひのきおだけ)から檜尾尾根を経由して下山するエスケープルートもあるため、比較的計画が立てやすい。
空木岳・木曽駒ヶ岳間はいくつものピークによって稜線が繋がっていて、激しいアップダウンの縦走路は登山時間も長い。しかしロープウェイをうまく利用することで、限られた時間内でも踏破することが可能である。通常はロープウェイ千畳敷駅よりスタートして、なるべく標高差を稼ぎ、それから空木岳へ向けて南下する。稜線上には山荘や小屋などの宿泊施設や、檜尾岳(ひのきおだけ)から檜尾尾根を経由して下山するエスケープルートもあるため、比較的計画が立てやすい。

旅のチェックポイント
登ったのは9月下旬の3連休。空木岳・木曽駒ヶ岳間を縦走する計画を立てたものの、連休の山荘はどこも満室。予約が取れたのは、2日目の「天狗荘」のみだった。仕方なく予定を変更して、1日目に空木平避難小屋へ泊まる「池山尾根登山口」をスタートとした逆ルートで挑む。
登ったのは9月下旬の3連休。空木岳・木曽駒ヶ岳間を縦走する計画を立てたものの、連休の山荘はどこも満室。予約が取れたのは、2日目の「天狗荘」のみだった。仕方なく予定を変更して、1日目に空木平避難小屋へ泊まる「池山尾根登山口」をスタートとした逆ルートで挑む。
・駒ケ根ロープウェイしらび平駅まではマイカー規制が行われていて、公共バスやタクシーでのみアプローチ可能。
・駒ケ根ロープウェイしらび平駅まではマイカー規制が行われていて、公共バスやタクシーでのみアプローチ可能。
・池山尾根登山口へのアクセスは、駒ケ根駅よりロープウェイしらび平駅行き公共バスが、池山尾根登山口の最寄りである「菅の台バスセンター」を経由して運行している。
・池山尾根登山口へのアクセスは、駒ケ根駅よりロープウェイしらび平駅行き公共バスが、池山尾根登山口の最寄りである「菅の台バスセンター」を経由して運行している。
・駒ケ根駅、宮田駅付近は宿やタクシーの台数が限られているため、繁盛期には注意。またスーパーも少ないので買い出しは事前に行っておく。
・駒ケ根駅、宮田駅付近は宿やタクシーの台数が限られているため、繁盛期には注意。またスーパーも少ないので買い出しは事前に行っておく。
・ロープウェイは帰りが混み始めると、待ち時間が発生するので帰りの公共機関は、乗車時間に注意。
・ロープウェイは帰りが混み始めると、待ち時間が発生するので帰りの公共機関は、乗車時間に注意。
・池山尾根ルートは林道古城線を使うことでショートカットが可能だが2024年現在、一般車両の通行不可となっている。
・池山尾根ルートは林道古城線を使うことでショートカットが可能だが2024年現在、一般車両の通行不可となっている。
登山録
PROLOGUE
残暑の続く9月の後半。住みたい田舎の村ランキング全国第1位(※2023年調べ)に輝いた、長野県上伊那郡(ながのけんかみいなぐん)の宮田村(みやだむら)に構えるゲストハウス「宿屋DOYA」に前乗りした我々は、空木岳(うつぎだけ)・木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)縦走の旅に備えていた。9/21~9/23の3日間で、駒ケ根(こまがね)市内から始まる池山尾根登山口を出発。池山尾根ルートを進み空木岳に登頂後、東川岳(ひがしかわだけ)から極楽平(ごくらくだいら)までの主稜線上を北上しつつ、宝剣岳(ほうけんだけ)、木曽駒ヶ岳を踏破して千畳敷(せんじょうじき)ロープウェイ駅へ下山する計画だった。


残暑の続く9月の後半。住みたい田舎の村ランキング全国第1位(※2023年調べ)に輝いた、長野県上伊那郡(ながのけんかみいなぐん)の宮田村(みやだむら)に構えるゲストハウス「宿屋DOYA」に前乗りした我々は、空木岳(うつぎだけ)・木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)縦走の旅に備えていた。9/21~9/23の3日間で、駒ケ根(こまがね)市内から始まる池山尾根登山口を出発。池山尾根ルートを進み空木岳に登頂後、東川岳(ひがしかわだけ)から極楽平(ごくらくだいら)までの主稜線上を北上しつつ、宝剣岳(ほうけんだけ)、木曽駒ヶ岳を踏破して千畳敷(せんじょうじき)ロープウェイ駅へ下山する計画だった。

しかし、1週間前からこの連休の天気予報は雨。期待も空しく、回復するどころか中央アルプス一帯で大荒れ警報が発表された。延期も考えたがそれでも諦めきれず、サブプランを立ててみた。3日目の最終日は天気が回復する可能性が高く、初日・中日の悪天候によっては木曽駒ヶ岳方面には進まず、空木平避難小屋(うつぎだいらひなんごや)で停滞、空木岳山頂だけでもピークハントして下山するのだ。木曽駒ヶ岳を諦めるのはくやしい。それだけに空木岳までは何が何でも進むつもりだった。
しかし、1週間前からこの連休の天気予報は雨。期待も空しく、回復するどころか中央アルプス一帯で大荒れ警報が発表された。延期も考えたがそれでも諦めきれず、サブプランを立ててみた。3日目の最終日は天気が回復する可能性が高く、初日・中日の悪天候によっては木曽駒ヶ岳方面には進まず、空木平避難小屋(うつぎだいらひなんごや)で停滞、空木岳山頂だけでもピークハントして下山するのだ。木曽駒ヶ岳を諦めるのはくやしい。それだけに空木岳までは何が何でも進むつもりだった。





1st day 9/21
1日目の行程
駒ケ根高原スキー場→池山小屋→大地獄→ヨナ沢ノ頭→空木平避難小屋
1日目の行程
駒ケ根高原スキー場→池山小屋→大地獄→ヨナ沢ノ頭→空木平避難小屋


初日の朝。雨は降っておらず出発できそうでホッとした。今日は登山口から空木平避難小屋まで、約7時間の行程。避難小屋の混み具合を考えると、なるべく早く辿り着く必要があった。昨日のうちに予約を取り付けた貴重なタクシーは「ロープウェイしらび平駅」へ先客を送り届け、約束の午前6時キッカリに宿へ現れる。連休中は数少ない地元のタクシーも対応で忙しいとの事。運転手にあらためて行き先を告げると「スキー場の駐車場で間違いないね」と念を押されて(※地元の呼び名だろうか)宮田村から駒ヶ根市内へ進む。窓から外を覗くと、肝心の中央アルプスは雲に覆われている。駒ヶ根高原スキー場の駐車場には、確かに「池山尾根登山口」と書かれた看板に合わせて、登山者達の車が数台並んでいた。何組か出発するのを横目に午前7時頃、登り始める。

初日の朝。雨は降っておらず出発できそうでホッとした。今日は登山口から空木平避難小屋まで、約7時間の行程。避難小屋の混み具合を考えると、なるべく早く辿り着く必要があった。昨日のうちに予約を取り付けた貴重なタクシーは「ロープウェイしらび平駅」へ先客を送り届け、約束の午前6時キッカリに宿へ現れる。連休中は数少ない地元のタクシーも対応で忙しいとの事。運転手にあらためて行き先を告げると「スキー場の駐車場で間違いないね」と念を押されて(※地元の呼び名だろうか)宮田村から駒ヶ根市内へ進む。窓から外を覗くと、肝心の中央アルプスは雲に覆われている。駒ヶ根高原スキー場の駐車場には、確かに「池山尾根登山口」と書かれた看板に合わせて、登山者達の車が数台並んでいた。何組か出発するのを横目に午前7時頃、登り始める。




まずは遊歩道を進む。麓(ふもと)付近にかけて熊の目撃が相次いでいて、鈴をチリリンと小気味よく鳴らしながら歩く。この遊歩道は、林道古城線(※以前は林道を使用して登山道のショートカットが可能だったが、2024年現在、一般車両の通行不可となっている)と交差を繰り返しながら高度を上げていく。栗の実やドングリがコロコロ転がっていて、静かな森だった。林道の終点に差し掛かり、遊歩道から空木岳へと本線の登山道に切り替わる。やはりパラパラと降ってきた。三本木分岐でお地蔵にあいさつを交わし、それから1時間ほど歩いた所で、大きな切妻屋根が見えた。ログハウス風の池山小屋(いけやまごや)は立ち寄りたくなるような立派な佇まいで、雨宿りを兼ねて30分ほど休憩した。


まずは遊歩道を進む。麓(ふもと)付近にかけて熊の目撃が相次いでいて、鈴をチリリンと小気味よく鳴らしながら歩く。この遊歩道は、林道古城線(※以前は林道を使用して登山道のショートカットが可能だったが、2024年現在、一般車両の通行不可となっている)と交差を繰り返しながら高度を上げていく。栗の実やドングリがコロコロ転がっていて、静かな森だった。林道の終点に差し掛かり、遊歩道から空木岳へと本線の登山道に切り替わる。やはりパラパラと降ってきた。三本木分岐でお地蔵にあいさつを交わし、それから1時間ほど歩いた所で、大きな切妻屋根が見えた。ログハウス風の池山小屋(いけやまごや)は立ち寄りたくなるような立派な佇まいで、雨宿りを兼ねて30分ほど休憩した。







小屋を出発すると、雨が降ったり止んだりと忙しく、風も強く吹いてきた。他の登山者の姿は見当たらず、一面クマサザに覆われた登山道の背高い木々は、ガサガサと葉の音をたてながら幹をしならせ踊り出す。避難小屋泊の初日は、食料や寝袋を詰め込んだザックが重たいので慣れるまでがツラい。さらに空木平避難小屋までの道のりは長く、まだまだ4時間ほど掛かる。やれやれだ。しばらくは単調な登りが続き、いつまで経っても一向に視界が開く事のない登山道だった。それでも、キノコを見つけたり、カエルに驚かされて、池山尾根ルート中腹部を楽しんだ。正午を過ぎたが、天気が荒れる前に少しでも距離を稼ぎたかったので、道中でおにぎりや行動食を食べながら小休止を繰り返す。

小屋を出発すると、雨が降ったり止んだりと忙しく、風も強く吹いてきた。他の登山者の姿は見当たらず、一面クマサザに覆われた登山道の背高い木々は、ガサガサと葉の音をたてながら幹をしならせ踊り出す。避難小屋泊の初日は、食料や寝袋を詰め込んだザックが重たいので慣れるまでがツラい。さらに空木平避難小屋までの道のりは長く、まだまだ4時間ほど掛かる。やれやれだ。しばらくは単調な登りが続き、いつまで経っても一向に視界が開く事のない登山道だった。それでも、キノコを見つけたり、カエルに驚かされて、池山尾根ルート中腹部を楽しんだ。正午を過ぎたが、天気が荒れる前に少しでも距離を稼ぎたかったので、道中でおにぎりや行動食を食べながら小休止を繰り返す。








「マセナギ」の道標を過ぎて、ピークからコルへ下ると木製のハシゴや鎖場が連続する区間へと変わる。この「大地獄・小地獄」と名付けられた登山道は、険しさを増して迷尾根(まよいおね)へと続き、息を弾ませながら一歩ずつ丁寧に足を運んだ。ヨナ沢ノ頭を通り過ぎて、避難小屋まであと一息だ。私はしんどい時「あーキツイ キツイ」と声に出すクセがある。声といっしょに息を吐くことで自然と呼吸が整い、いくらか気がまぎれるからだ。空木平分岐を左手に進み、開けた登山道のその先には「空木平カール」が出迎えてくれた。森林限界の世界に枯れ沢と草紅葉(くさもみじ)が美しくて思わず立ち止まる。晴れていれば、ここから空木岳山頂と対面するはずだった。午後16時。空木平避難小屋に辿り着いた。


「マセナギ」の道標を過ぎて、ピークからコルへ下ると木製のハシゴや鎖場が連続する区間へと変わる。この「大地獄・小地獄」と名付けられた登山道は、険しさを増して迷尾根(まよいおね)へと続き、息を弾ませながら一歩ずつ丁寧に足を運んだ。ヨナ沢ノ頭を通り過ぎて、避難小屋まであと一息だ。私はしんどい時「あーキツイ キツイ」と声に出すクセがある。声といっしょに息を吐くことで自然と呼吸が整い、いくらか気がまぎれるからだ。空木平分岐を左手に進み、開けた登山道のその先には「空木平カール」が出迎えてくれた。森林限界の世界に枯れ沢と草紅葉(くさもみじ)が美しくて思わず立ち止まる。晴れていれば、ここから空木岳山頂と対面するはずだった。午後16時。空木平避難小屋に辿り着いた。












2003年に立て替えられた現在の空木平避難小屋は、収容人数が20人程度。高さを低く抑え、最小限の灯取りの窓がついた無駄の無い作りで、空木平は風の影響が強いのだろうか、屋根が飛ばされないように重石(おもし)を乗せている。先に休んでいた4、5人の登山者達は10分もしないうちに池山尾根方面へ後を立ち、混雑の予想は取り越し苦労に終わったようだ。入り口から心地よい風が入ってくるので寝袋に包まって良いアンバイで、外をぼんやり眺めていた。一息ついた後は、飲み水の確保へ向かう。空木平の地形は「水場」を兼ねている。枯れ沢を注意深く登り手からクネクネと降って散策すると、ほんの少し染み出した湧水を見つける事ができた。手がキンキンになるほど雪解け水のように冷たくて「飲み水」として煮沸した。

2003年に立て替えられた現在の空木平避難小屋は、収容人数が20人程度。高さを低く抑え、最小限の灯取りの窓がついた無駄の無い作りで、空木平は風の影響が強いのだろうか、屋根が飛ばされないように重石(おもし)を乗せている。先に休んでいた4、5人の登山者達は10分もしないうちに池山尾根方面へ後を立ち、混雑の予想は取り越し苦労に終わったようだ。入り口から心地よい風が入ってくるので寝袋に包まって良いアンバイで、外をぼんやり眺めていた。一息ついた後は、飲み水の確保へ向かう。空木平の地形は「水場」を兼ねている。枯れ沢を注意深く登り手からクネクネと降って散策すると、ほんの少し染み出した湧水を見つける事ができた。手がキンキンになるほど雪解け水のように冷たくて「飲み水」として煮沸した。




夕暮れ時。お待ちかねの時間がやって来た。メインのインスタント食品に、皆で持ち寄ったソーセージやつまみ、メンチカツに生ピーマンまで揃った夕飯と、空木平天然水で割った芋焼酎お湯割りで乾杯する。我々が到着して以降、ほかの登山者は現れず小屋は貸切になった。予定だと、明日は宝剣岳直下の「天狗荘」まで行かなくてはならない。山頂付近は携帯電話が繋がりづらく、なんとか些細な電波をキャッチすると、夕方に発表された天気予報を受信できた。「明日の正午から夕方に掛けて、天気が回復する見込み」との内容だった。天気の回復が早まっている。つまり明日は午前中さえ頑張れば、木曽駒ヶ岳に向けてかなり前進できるのではないか。サブプラン通り避難小屋で一日中ウズウズしているよりは「朗報」だと思った。


夕暮れ時。お待ちかねの時間がやって来た。メインのインスタント食品に、皆で持ち寄ったソーセージやつまみ、メンチカツに生ピーマンまで揃った夕飯と、空木平天然水で割った芋焼酎お湯割りで乾杯する。我々が到着して以降、ほかの登山者は現れず小屋は貸切になった。予定だと、明日は宝剣岳直下の「天狗荘」まで行かなくてはならない。山頂付近は携帯電話が繋がりづらく、なんとか些細な電波をキャッチすると、夕方に発表された天気予報を受信できた。「明日の正午から夕方に掛けて、天気が回復する見込み」との内容だった。天気の回復が早まっている。つまり明日は午前中さえ頑張れば、木曽駒ヶ岳に向けてかなり前進できるのではないか。サブプラン通り避難小屋で一日中ウズウズしているよりは「朗報」だと思った。




2nd day 9/22
2日目の行程
空木平避難小屋→空木岳山頂→木曽殿越→東川岳→熊沢岳→檜尾岳→濁沢大峰→極楽平→宝剣岳→宝剣山荘
2日目の行程
空木平避難小屋→空木岳山頂→木曽殿越→東川岳→熊沢岳→檜尾岳→濁沢大峰→極楽平→宝剣岳→宝剣山荘


湿っぽい風が吹く、今にも降りだしそうな生ぬるい朝だった。時間は午前4時半。昨夜は朗報だと息巻いてはみたものの、今日の行程は空木平から天狗荘まで約10時間半と長く、天気予報通りに事が運んだとしても、午前中は雨の登山道を進まなければならない。天候次第では天狗荘はあきらめて主稜線上の中間に位置する檜尾小屋(ひのきおごや)に泊まる事も想定して、それでも前に進もうと皆で決めた。避難小屋を後に、空木岳山頂に向けて岩場の登山道が続く。標高差は約300mほど。湿気のせいかいつもより高山病がキツく、頭痛に加えてすぐに息が上がってしまい、先の二人の姿を見失う。夜明け前の暗がりに霧が濃くて足元がおぼつかないので、焦らずマイペースを保つ。

湿っぽい風が吹く、今にも降りだしそうな生ぬるい朝だった。時間は午前4時半。昨夜は朗報だと息巻いてはみたものの、今日の行程は空木平から天狗荘まで約10時間半と長く、天気予報通りに事が運んだとしても、午前中は雨の登山道を進まなければならない。天候次第では天狗荘はあきらめて主稜線上の中間に位置する檜尾小屋(ひのきおごや)に泊まる事も想定して、それでも前に進もうと皆で決めた。避難小屋を後に、空木岳山頂に向けて岩場の登山道が続く。標高差は約300mほど。湿気のせいかいつもより高山病がキツく、頭痛に加えてすぐに息が上がってしまい、先の二人の姿を見失う。夜明け前の暗がりに霧が濃くて足元がおぼつかないので、焦らずマイペースを保つ。


1時間ほど登り、周囲が明るくなり始めた頃に、空木駒峰(うつぎこまほう)ヒュッテが現れた。小屋は地元の山岳会が運営を行っていて、7月中旬から10月中旬までの限られた季節のみ開かれる。特にヒュッテから望む朝の中央アルプスは登山者たちの好評が高い。空木岳山頂はこの砂礫(されき)の急勾配を登ればすぐそこだ。もちろんピークハントして先を急ぐつもりだった。ところが大きな花崗岩で形成された山頂には、人影も眺望も無い代わりに西側(※木曽谷側)から突風と雨が吹き荒れていて、なんとか山頂を写真に納めるだけで精一杯だった。飛ばされないように地図を開く。木曽殿山荘(きそどのさんそう)までは約1時間ほど降る事になるが、少しでも前進したくてヒュッテには戻らず、山荘に進む。


1時間ほど登り、周囲が明るくなり始めた頃に、空木駒峰(うつぎこまほう)ヒュッテが現れた。小屋は地元の山岳会が運営を行っていて、7月中旬から10月中旬までの限られた季節のみ開かれる。特にヒュッテから望む朝の中央アルプスは登山者たちの好評が高い。空木岳山頂はこの砂礫(されき)の急勾配を登ればすぐそこだ。もちろんピークハントして先を急ぐつもりだった。ところが大きな花崗岩で形成された山頂には、人影も眺望も無い代わりに西側(※木曽谷側)から突風と雨が吹き荒れていて、なんとか山頂を写真に納めるだけで精一杯だった。飛ばされないように地図を開く。木曽殿山荘(きそどのさんそう)までは約1時間ほど降る事になるが、少しでも前進したくてヒュッテには戻らず、山荘に進む。



登りとは対照的な崖状の登山道を降っていく。ガス掛かっていて底が見えないのが不気味で、かつ突風が雨と共に吹き上げてくると、みるみる内にずぶ濡れになる。寒い。どうやら南北に伸びる中央アルプスは西側(木曽谷側)から吹く雨風によって大荒れ警報が発表されているようだ。昨日は東側の池山登山口から山に守られるように登山道を登ってきた。小雨程度で済んだのはそのせいだ。これでは主稜線上も大荒れの可能性が高い。ルンゼの鎖場を突風に煽られながら鎖にしがみつく。気を抜くと体ごと持っていかれてしまいそうな強風だ。山荘到着予定の1時間が過ぎると、道を間違えたかと不安になり、山荘の姿が待ちどうしくてたまらなかった。午前7時。木曽殿山荘に逃げ込んだ。



登りとは対照的な崖状の登山道を降っていく。ガス掛かっていて底が見えないのが不気味で、かつ突風が雨と共に吹き上げてくると、みるみる内にずぶ濡れになる。寒い。どうやら南北に伸びる中央アルプスは西側(木曽谷側)から吹く雨風によって大荒れ警報が発表されているようだ。昨日は東側の池山登山口から山に守られるように登山道を登ってきた。小雨程度で済んだのはそのせいだ。これでは主稜線上も大荒れの可能性が高い。ルンゼの鎖場を突風に煽られながら鎖にしがみつく。気を抜くと体ごと持っていかれてしまいそうな強風だ。山荘到着予定の1時間が過ぎると、道を間違えたかと不安になり、山荘の姿が待ちどうしくてたまらなかった。午前7時。木曽殿山荘に逃げ込んだ。


逃げ込むやいなや、山荘の当主(※以後マスターと呼ばせて頂く)の指示に従い、ザックを下ろし雨具を脱いだ。宿泊予約をしている訳では無いので30分1人300円のショバ代を支払う約束を交わし、2m四方の下屋(げや)へ案内された。山荘内は照明が消えて薄暗く、登山者もいない。様子がおかしいので話を伺う。なんとこの天気のせいで満室の予約はすべてキャンセルに、登山客は我々3人のみだった。ご厚意で頂いたホットコーヒーを手に取ると、マスターが切り出した。「空木平避難小屋へ戻りなさい。それが1番安全だ。この悪天候の中、ここまで来れたんだから戻れるはずだ」……………。唐突すぎて一体何を言っているのかさっぱり頭に入ってこなかったが、暖かいコーヒーが突風と雨で冷えた体を温めてくれた。


逃げ込むやいなや、山荘の当主(※以後マスターと呼ばせて頂く)の指示に従い、ザックを下ろし雨具を脱いだ。宿泊予約をしている訳では無いので30分1人300円のショバ代を支払う約束を交わし、2m四方の下屋(げや)へ案内された。山荘内は照明が消えて薄暗く、登山者もいない。様子がおかしいので話を伺う。なんとこの天気のせいで満室の予約はすべてキャンセルに、登山客は我々3人のみだった。ご厚意で頂いたホットコーヒーを手に取ると、マスターが切り出した。「空木平避難小屋へ戻りなさい。それが1番安全だ。この悪天候の中、ここまで来れたんだから戻れるはずだ」………。唐突すぎて一体何を言っているのかさっぱり頭に入ってこなかったが、暖かいコーヒーが突風と雨で冷えた体を温めてくれた。


つまり、明日[9/23]の天気が100%回復する保証はない以上、今日のうちに避難小屋へ戻り、明日の朝、無事「家へ帰れ」と言うワケだ。「悪天候の中、進むべきでは無かった」とも聞こえる。しかしもうここへ来てしまっている上に、今更あの突風の中、空木岳山頂へ引き返すのはゴメンだ。そして「正午から夕方に掛けて、回復する見込み」と天気予報を頼りにしていた。が、マスターは「それはない。回復の見込みは今日の日没以降だからね」とバッサリ。それでも諦めきれず、無理を言ってこの先の檜尾小屋(ひのきおごや)へ本日の予約の電話と、しばらく山荘で天気が回復するまで「待たせてくれ」とお願いした。あくまで木曽駒ヶ岳へむけて少しでも前進するつもりだった。

つまり、明日[9/23]の天気が100%回復する保証はない以上、今日のうちに避難小屋へ戻り、明日の朝、無事「家へ帰れ」と言うワケだ。「悪天候の中、進むべきでは無かった」とも聞こえる。しかしもうここへ来てしまっている上に、今更あの突風の中、空木岳山頂へ引き返すのはゴメンだ。そして「正午から夕方に掛けて、回復する見込み」と天気予報を頼りにしていた。が、マスターは「それはない。回復の見込みは今日の日没以降だからね」とバッサリ。それでも諦めきれず、無理を言ってこの先の檜尾小屋(ひのきおごや)へ本日の予約の電話と、しばらく山荘で天気が回復するまで「待たせてくれ」とお願いした。あくまで木曽駒ヶ岳へむけて少しでも前進するつもりだった。


最初の30分が過ぎ、次の延長料金を支払う。マスターは食材の仕入れや登山客の電話対応で忙しく(※山荘は二人で切り盛りされているようだった。)なかなか相手にしてくれない。それに延長の度に機嫌が悪くなっている気がして、一回の延長時間を1時間に変更した。天気は回復することなく、結局6時間延長の末に、13時には山荘から「出発」するようマスターから指示が出る。登山においては目的地に15時〜16時ごろ辿り着くのが鉄則で、木曽殿山荘から檜尾小屋まで最低でも4時間半は掛かる。マスターは「進む」と選択した我々に、冷静なアドバイスをくれていた。檜尾小屋に進むべきか、空木平避難小屋に戻るべきか。どちらにしても大荒れ警報中の登山道を行くのはツラく、まさに「前門の虎、後門のオオカミ」状態である。窓から外を覗くと「そんな事知ったこっちゃない」と言わんばかりに突風と雨が吹き荒れていて、まさかこんな事になるとは思ってなかった。もう選択肢は一つしかない。マスターに頭を下げて、木曽殿山荘への宿泊と檜尾小屋の予約キャンセルを依頼した。
最初の30分が過ぎ、次の延長料金を支払う。マスターは食材の仕入れや登山客の電話対応で忙しく(※山荘は二人で切り盛りされているようだった。)なかなか相手にしてくれない。それに延長の度に機嫌が悪くなっている気がして、一回の延長時間を1時間に変更した。天気は回復することなく、結局6時間延長の末に、13時には山荘から「出発」するようマスターから指示が出る。登山においては目的地に15時〜16時ごろ辿り着くのが鉄則で、木曽殿山荘から檜尾小屋まで最低でも4時間半は掛かる。マスターは「進む」と選択した我々に、冷静なアドバイスをくれていた。檜尾小屋に進むべきか、空木平避難小屋に戻るべきか。どちらにしても大荒れ警報中の登山道を行くのはツラく、まさに「前門の虎、後門のオオカミ」状態である。窓から外を覗くと「そんな事知ったこっちゃない」と言わんばかりに突風と雨が吹き荒れていて、まさかこんな事になるとは思ってなかった。もう選択肢は一つしかない。マスターに頭を下げて、木曽殿山荘への宿泊と檜尾小屋の予約キャンセルを依頼した。

「分かった」マスターはそう答えると、すぐに檜尾小屋へキャンセルの電話を掛ける。それから延長時間6時間とは別にキッチリと素泊まり7700円を支払う。自然界は厳しい。今日は進まないと決めた以上、気持ちを切り替えて休む事にした。2階の大部屋を独占するなんて山荘では滅多にない。あったかい布団でひと眠りした後、明日の行程について話し合った。まず、そもそも明日中には「家」へ帰らなければいけない。連休明けは仕事が待っている。ただし、このまま来た道を空木岳方面へ下山するのは、後ろ髪を惹かれる気がして、せめて稜線を北上してみたかった。マスターからの情報では、1日目・2日目とも実はロープウェイが運休していて、明日の運行も天気次第との事。また、山荘から宝剣岳までの登山時間は地図によらず、上級者で7時間半に巻ける事。これらの条件を整理してみた。


「分かった」マスターはそう答えると、すぐに檜尾小屋へキャンセルの電話を掛ける。それから延長時間6時間とは別にキッチリと素泊まり7700円を支払う。自然界は厳しい。今日は進まないと決めた以上、気持ちを切り替えて休む事にした。2階の大部屋を独占するなんて山荘では滅多にない。あったかい布団でひと眠りした後、明日の行程について話し合った。まず、そもそも明日中には「家」へ帰らなければいけない。連休明けは仕事が待っている。ただし、このまま来た道を空木岳方面へ下山するのは、後ろ髪を惹かれる気がして、せめて稜線を北上してみたかった。マスターからの情報では、1日目・2日目とも実はロープウェイが運休していて、明日の運行も天気次第との事。また、山荘から宝剣岳までの登山時間は地図によらず、上級者で7時間半に巻ける事。これらの条件を整理してみた。


1.明日天気が回復しない場合、空木岳方面へ来た道を下山。
1.明日天気が回復しない場合、空木岳方面へ来た道を下山。
2.天気は回復したが、ロープウェイが運休の場合、檜尾岳に登頂後、檜尾尾根を通りエスケープルートで下山。
2.天気は回復したが、ロープウェイが運休の場合、檜尾岳に登頂後、檜尾尾根を通りエスケープルートで下山。
3.ロープウェイが運行している場合、檜尾岳からさらに北上して、極楽平に到着。宝剣岳・木曽駒ケ岳を踏破して、ロープウェイで下山。(※ただし時間によっては木曽駒ケ岳をあきらめて、極楽平からロープウェイで下山)
3.ロープウェイが運行している場合、檜尾岳からさらに北上して、極楽平に到着。宝剣岳・木曽駒ケ岳を踏破して、ロープウェイで下山。(※ただし時間によっては木曽駒ケ岳をあきらめて、極楽平からロープウェイで下山)

急ぎ足で登山道を巻くことができれば、木曽駒ケ岳に進むチャンスがまだあると分かった。外の様子も少しづつ回復に向かい、明日の登山に備えようと山荘から歩いて10分の水場で義仲(よしなか)の力水を手に入れる。山荘が建つ木曽殿越(きそどのごえ)は標高2586mの鞍部だ。視界の無い西の木曽谷側から、モヤがピンク色に染まり遠くで夕日が落ちているのが分かった。それから夕食の時間。一階では休日をくつろぐマスターたちが、先に一杯やりながらテレビで「大相撲」を流していたので、我々もお邪魔させてもらった。勝敗の結果と土俵際、最前列にタレントのデヴィ夫人と政治家の鈴木宗男氏が観戦していると分かり、山荘はにぎやかになった。午後8時、消灯に合わせて就寝した。

急ぎ足で登山道を巻くことができれば、木曽駒ケ岳に進むチャンスがまだあると分かった。外の様子も少しづつ回復に向かい、明日の登山に備えようと山荘から歩いて10分の水場で義仲(よしなか)の力水を手に入れる。山荘が建つ木曽殿越(きそどのごえ)は標高2586mの鞍部だ。視界の無い西の木曽谷側から、モヤがピンク色に染まり遠くで夕日が落ちているのが分かった。それから夕食の時間。一階では休日をくつろぐマスターたちが、先に一杯やりながらテレビで「大相撲」を流していたので、我々もお邪魔させてもらった。勝敗の結果と土俵際、最前列にタレントのデヴィ夫人と政治家の鈴木宗男氏が観戦していると分かり、山荘はにぎやかになった。午後8時、消灯に合わせて就寝した。

3rd day 9/23
3日目の行程
木曽殿越→東川岳→熊沢岳→檜尾岳→濁沢大峰→極楽平→宝剣岳→宝剣山荘→木曽駒ヶ岳山頂→千畳敷ロープウェイ駅
3日目の行程
木曽殿越→東川岳→熊沢岳→檜尾岳→濁沢大峰→極楽平→宝剣岳→宝剣山荘→木曽駒ヶ岳山頂→千畳敷ロープウェイ駅

午前4時。木曽殿越には月が輝き、マスターにお礼をすると出発を見送ってくれた。ライトを照らし準備を整えると、空木岳ではなく北上するために東川岳へ向かう。2日分の食料を消費したザックは軽く、今日は体が順応したせいか高山病も気にならない。登山道は岩場の急勾配を巻いて進んでいくので、夜明け前の冷たい風が吹くと、肌寒いぐらいがちょうど良い。30分ほどで東川岳の山頂へ辿り着き、ついに稜線上へやってきた。熊沢岳(くまざわだけ)へと足を進める。東に連なる山々の奥から朝日が昇り、夜明けが始まった。南東方向には1日目に登ってきた「池山尾根ルート」の尾根ラインが麓から伸びてくると、高く大きな山容を表しながら1つの頂点へ到達する。空木岳だ。強風が吹き荒れていた山頂から白い花崗岩が散りばめられ、トレードマークになっている。しばらく立ち尽くしたまま、空木岳の姿を眺めていた。


午前4時。木曽殿越には月が輝き、マスターにお礼をすると出発を見送ってくれた。ライトを照らし準備を整えると、空木岳ではなく北上するために東川岳へ向かう。2日分の食料を消費したザックは軽く、今日は体が順応したせいか高山病も気にならない。登山道は岩場の急勾配を巻いて進んでいくので、夜明け前の冷たい風が吹くと、肌寒いぐらいがちょうど良い。30分ほどで東川岳の山頂へ辿り着き、ついに稜線上へやってきた。熊沢岳(くまざわだけ)へと足を進める。東に連なる山々の奥から朝日が昇り、夜明けが始まった。南東方向には1日目に登ってきた「池山尾根ルート」の尾根ラインが麓から伸びてくると、高く大きな山容を表しながら1つの頂点へ到達する。空木岳だ。強風が吹き荒れていた山頂から白い花崗岩が散りばめられ、トレードマークになっている。しばらく立ち尽くしたまま、空木岳の姿を眺めていた。






北へ向かって稜線を遠く見つめると、大小無数のピークが顔を出していて、どの山なのかは近づいて見てからのお楽しみである。西側には百名山の御嶽山(おんたけさん)がどっしりと構えていて、東側には駒ケ根市街と南アルプスの峰々が屏風のように連なり光り輝いていた。待ちに待った主稜線の登山旅だ。熊沢五峰(くまざわごほう)と呼ばれる五つの小ピークが続く。コルから登り返し、急な岩場を進み、今度は広い尾根を通過して行く。前から登山者がやってくる。40代くらいの男性で、早朝檜尾小屋から出発してきた。「あなた方でしたか。」昨日の木曽殿山荘内での一件は檜尾小屋でも話題になったそうで、恐縮してしまう。その際に、今日はロープウェイが「運行」していると情報を頂いた。

北へ向かって稜線を遠く見つめると、大小無数のピークが顔を出していて、どの山なのかは近づいて見てからのお楽しみである。西側には百名山の御嶽山(おんたけさん)がどっしりと構えていて、東側には駒ケ根市街と南アルプスの峰々が屏風のように連なり光り輝いていた。待ちに待った主稜線の登山旅だ。熊沢五峰(くまざわごほう)と呼ばれる五つの小ピークが続く。コルから登り返し、急な岩場を進み、今度は広い尾根を通過して行く。前から登山者がやってくる。40代くらいの男性で、早朝檜尾小屋から出発してきた。「あなた方でしたか。」昨日の木曽殿山荘内での一件は檜尾小屋でも話題になったそうで、恐縮してしまう。その際に、今日はロープウェイが「運行」していると情報を頂いた。





熊沢岳を過ぎると、 三沢岳(さんのさわだけ)と三沢カール群の大パノラマが現れて、この稜線の全貌が明らかになってきた。稜線はカールの東側を通り抜け、中央アルプス北部の山域へ確かにつながっている。大滝山(おおたきやま)へと続く登山道をコルの岩場へ高度を下げる。アンカーの手掛かりを頼りに登攀(とうはん)する部分もあってスリリングな岩場を越えていく。振り返れば、これまで進んできた道筋と共に、空木岳がだいぶ遠退いた。 山荘を出発して約4時間が過ぎ、気持ちの良い稜線漫歩(りょうせんまんぽ)にも繰り返すアップダウンで疲れが隠せない。この稜線を踏破するには体力と時間に加えて、澄み切った青空が必要不可欠である。後半に備えて檜尾岳で休憩する事にした。


熊沢岳を過ぎると、 三沢岳(さんのさわだけ)と三沢カール群の大パノラマが現れて、この稜線の全貌が明らかになってきた。稜線はカールの東側を通り抜け、中央アルプス北部の山域へ確かにつながっている。大滝山(おおたきやま)へと続く登山道をコルの岩場へ高度を下げる。アンカーの手掛かりを頼りに登攀(とうはん)する部分もあってスリリングな岩場を越えていく。振り返れば、これまで進んできた道筋と共に、空木岳がだいぶ遠退いた。 山荘を出発して約4時間が過ぎ、気持ちの良い稜線漫歩(りょうせんまんぽ)にも繰り返すアップダウンで疲れが隠せない。この稜線を踏破するには体力と時間に加えて、澄み切った青空が必要不可欠である。後半に備えて檜尾岳で休憩する事にした。










標高2728mの檜尾岳は360°の展望と、特に東側には絵にかいたような丸い丘のピークに檜尾小屋が立ち、その先に檜尾尾根が麓へと続いている。(※檜尾小屋は令和4年7月にリニューアルして以来、避難小屋から素泊まりのみの小屋に変更して期間内で営業中)ロープウェイが運行している以上、エスケープルートは使わずさらに北上すると決めた。ここから極楽平まで約3時間ほど残っている。稜線の奥にはひと際急峻なピークがモグラ叩きのように顔を出していて、ついに宝剣岳を捕らえたようだ。休憩中に木曽殿山荘へ向かう50代の女性と話す機会があった。山荘の雰囲気を尋ねられ、コーヒーが美味かったのと「いい1日を過ごせた」と話した。その際に「3人組が無事、極楽平へ進んでいった」と、マスターへ伝言を女性にお願いした。

標高2728mの檜尾岳は360°の展望と、特に東側には絵にかいたような丸い丘のピークに檜尾小屋が立ち、その先に檜尾尾根が麓へと続いている。ロープウェイが運行している以上、エスケープルートは使わずさらに北上すると決めた。ここから極楽平まで約3時間ほど残っている。稜線の奥にはひと際急峻なピークがモグラ叩きのように顔を出していて、ついに宝剣岳を捕らえたようだ。休憩中に木曽殿山荘へ向かう50代の女性と話す機会があった。山荘の雰囲気を尋ねられ、コーヒーが美味かったのと「いい1日を過ごせた」と話した。その際に「3人組が無事、極楽平へ進んでいった」と、マスターへ伝言を女性にお願いした。


次の濁沢大嶺(にごりさわおおみね)までは、生い茂るハイマツを掻い潜りながらまたもやコルへと下る。登り返しはハシゴやロープ、急な登りが続き、陽の光がだいぶ高くなったせいか、暑くて汗が吹き出す。やれやれだ。残すピークは島田娘(しまだむすめ)のみ。あんなに遠かった三沢岳は目の前を通り過ぎてしまい、空木岳の姿はもう見えない。島田娘へと続くガレ場は、ピークに着いたかと思えばピークへとしつこく登山道が続くので、必死で食らいつく。午前11時ごろ、極楽平にやってきた。ついに東川岳から極楽平へと続く主稜線上を踏破したのだ。


次の濁沢大嶺(にごりさわおおみね)までは、生い茂るハイマツを掻い潜りながらまたもやコルへと下る。登り返しはハシゴやロープ、急な登りが続き、陽の光がだいぶ高くなったせいか、暑くて汗が吹き出す。やれやれだ。残すピークは島田娘(しまだむすめ)のみ。あんなに遠かった三沢岳は目の前を通り過ぎてしまい、空木岳の姿はもう見えない。島田娘へと続くガレ場は、ピークに着いたかと思えばピークへとしつこく登山道が続くので、必死で食らいつく。午前11時ごろ、極楽平にやってきた。ついに東川岳から極楽平へと続く主稜線上を踏破したのだ。















極楽平は宝剣岳と千畳敷ロープウェイ駅への分かれ道で、このあたりから登山者の姿も多くなる。楽しそうに散策するハイカー達や、稜線へ旅立つ人々。池山尾根ルートとも主稜線上の登山道とも違う、一面ハイマツとガレ場の美しいアルペン的な眺めに後押しされ、やはり我々は「木曽駒ケ岳」に進む事にした。宝剣岳は今旅一番の険しい登山道で、直下の宝剣山荘へ着くころにはもうヘトヘトだ。それでも最後は木曽駒ヶ岳山頂へたどり着けて、目標だった空木岳・木曽駒ヶ岳縦走の旅を無事終える。千畳敷カールを後に、ロープウェイで下山すると、立ち席の特急あずさで帰路に着いた。残暑の続く9月の後半。連休中の雨は、秋の彩りを早める雨だ。これから10月の中旬にかけて、早秋の中央アルプスは紅葉の最盛期を迎える。

極楽平は宝剣岳と千畳敷ロープウェイ駅への分かれ道で、このあたりから登山者の姿も多くなる。楽しそうに散策するハイカー達や、稜線へ旅立つ人々。池山尾根ルートとも主稜線上の登山道とも違う、一面ハイマツとガレ場の美しいアルペン的な眺めに後押しされ、やはり我々は「木曽駒ケ岳」に進む事にした。宝剣岳は今旅一番の険しい登山道で、直下の宝剣山荘へ着くころにはもうヘトヘト。それでも最後は木曽駒ヶ岳山頂へたどり着けて、目標だった空木岳・木曽駒ヶ岳縦走の旅を無事終える。千畳敷カールを後に、ロープウェイで下山すると、立ち席の特急あずさで帰路に着いた。残暑の続く9月の後半。連休中の雨は、秋の彩りを早める雨だ。これから10月の中旬にかけて、早秋の中央アルプスは紅葉の最盛期を迎える。









